教員インタビュー

教員インタビュー
Vol.10 激しく変化する時代
取材協力:倪 永茂 教員

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新しい変化

改組した国際学部が2017年4月以降、それまでの2学科を1学科に統合し、「多文化共生」というキーワードをもって時代の新しい変化に迎えようとしています。時代の変化というと、筆頭にあげるのはアメリカトランプ政権の樹立です。アメリカの国策や長年いわれてきたグローバル化経済や移民の受け入れ等にトランプ新大統領が疑問符を投げかけ、アメリカファースト主義を掲げました。人権・民主主義といった価値観が大きく揺れ動く時代に突入しました。

身近な時代変化に目を向けると、インターネット上では情報の細分化・分散化が相変わらず進んでいます。ひととのコミュニケーションについては、SNS(ソーシャルメディア)に頼るひとがますます多くなっています。電話することもショートメッセージを送ることもせず、代わりにSNSの音声・文字チャット機能を利用します。情報収集や情報発信の仕方が新しい形に変わろうとしています。

SNSの威力

携帯電話の出現、とくに、AndroidやiPhoneに代表されたスマートフォンの登場によって、距離的・時間的制約から解放され、いつでもどこにいてもネット社会とつながる環境が整えました。インターネット上にあるニュース、電子図書、音楽、写真、動画といった情報を自由にアクセスするだけでなく、いつでもだれかとつながる、いわば、人間関係の多縁化が仮想現実として成立しました。「六次の隔たり」という有名な実験で示したとおり、世界中の人間同士が数人の仲介でほとんどがつながるスモール・ワールドです。

SNSを一言といっても、人間関係の親密さで分類すると、全く知らない相手とつながるTwitter、友達の友達を紹介してくれるFacebook、互いによく知るLineやWeChat等、実に多種多様です。また、最新のニュースや音楽を共有したり、旅行先の記念写真をアップしたり、決定的瞬間を録画して投稿したり、共通の趣味や難しい話題についてグループディスカッションしたり、GPS位置データを送って道案内をしてもらったり、商品やサービスの決済をその場で行ったり、多くのことがその場で簡単に手軽にできてしまいます。

考えることを忘れるな

情報が多ければ多いほど、一人で深く考えることをしなくなるものです。多くの知識や情報がインターネット上にある今日、キーワード検索すれば、それらを容易く手に入れることができます。また、SNSに疑問や質問を投げ込めば、だれかが教えてくれます。加えて、興味津々の情報が次々と投稿されるので、毎日それらを追うだけで時間が過ぎてしまいます。SNSに毎日4時間以上費やす大学生は少なくありません。

辞書によると、情報とは、発信者から、何らかの媒体を通じて受信者に伝達される一定の意味を持つ内容のことです。情報は必ずしも真実を伝えるものでもなく、知識は情報を分析し、経験と組み合わさった時に得るものです。情報の信憑性を疑い、情報のソース源を確認しないと、ニセの情報に騙されてしまいます。情報を知識に昇華させるには、分析能力と経験が必要です。さらに、膨大な事実から類似点をまとめて、結論を引き出すには、帰納法という推論の考え方を身につける必要があります。分析能力や論理的推論力を養うには、きちんとした教育を受けることは近道です。情報が氾濫する今日、分析能力や推論力の重要性がいっそう高まります。言い換えると、情報化社会で勝者として生き残るために、深く考えることが求められます。

電子工作をしている様子
高校生のころから電子工作が得意

コンピュータとの出会い

自分の大学時代は宇都宮大学工学部で過ごしました。当時の1~2年次生が教養部に所属し、人文社会自然外国語等の教養科目を勉強していました。最も記憶に残っていることは、電算機教育という授業科目でした。100名以上の受講生が全学ただ一台のコンピュータを収める電算機室に行って、プログラムを大学生協で販売しているマークシートに行ごとに1枚ずつ鉛筆で塗りつぶして作成し、カードリーダーに何十~何百枚にもなるマークシートの束をセットして、数十分後にプリンターから吐き出した印刷用紙を丁寧にチェックし、自分が作ったプログラムのミスやバグ、実行結果の具合を確認します。キーボードもディスプレイも授業の受講生が使えない時代でした。そんな原始的なプログラミング環境下でも、素数表の作り方、クイックソート、乱数によるシミュレーション等、いまでも通用する情報科学の基礎知識を学習し吸収することができました。

大学3年次生になると、マイコン(パソコン)というものが販売されはじめ、NEC-8001 mkIIという8bit CPU、RAM 64KBのパソコンを買い求め、2日後にプロンプトにMONを入力し、アセンブラ言語を独習していき、ドキドキ、ワクワクの毎日でした。OSもアプリもすべて揃っている今日のパソコンと違って、なにもない当時のコンピュータはプログラミングの良き相手でした。なにしろ、作ったプログラムを保存することすらできず、一行ずつ紙で記録する時代でしたから。今日のパソコンでは16GBのRAMを内蔵する機種が多く、当時と比べて内蔵メモリの容量が26万倍も飛躍的に拡大し、モーア法則が実証された形です。

パソコンの前での写真
大学時代のパソコン。8インチフロッピー。
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インターネット時代の幕開け

学位を取得して、1991年に母校の宇都宮大学に戻ってきました。ちょうどその時、大学全体がクラスBのIPドメインをもらい、Eメールやニュースグループが使えるようになりました。科学技術計算やインターネットアクセスはUnixというOSを搭載したワークステーション、文書作成はNEC 9801シリーズかMacintoshというパソコンを使っていました。まもなく、NCSA MosaicやNetscape Navigatorといったブラウザが登場し、いまに続くWWWが一気にインターネットの主役に踊りだしました。そして、1995年Windows 95の発売にともない、各研究室のインターネット接続が当たり前のようになってきました。

激しく変化する時代

文字・音声・静止画・動画のデジタル化によって、視聴覚情報がデジタルデータとしてコンピュータが処理できるようになり、インターネット経由でいつでもどこまでも相手に伝達できるようになります。あらゆる情報の入り口として立ち上がったYahoo、あらゆる情報を集めて検索できるようにしたGoogle、人間同士の信頼関係に基づき、ひとびとを同じプラットフォームに活動させたFacebook、ビッグデータやクラウド技術を活用し、商品やサービスの販売を展開するAmazon、そして、情報の取扱を手元の小さなデバイスだけで完結させるスマートフォン等など、20年の間、われわれを取り巻くインターネット環境が目まぐるしく変化してきています。

変化に対処するスキル

では、変化にどう対処すればいいでしょう。まずは心構えとして、変化を脅威と考えるのではなく、機会と捉えることだと思います。変化があるからこそ、新しい学問、新しい技術、新しい考えが必要になるので、新しい人材の活躍が期待されるわけです。

つぎに、基礎をしっかり身につけることです。情報科学的な考え方や、プログラミングといった基本的スキルは数十年経っていても本質的な変化はありません。コンピュータの原点がチューニングマシンであることに変わりはないし、C言語をマスターすれば、その思想が他の言語にも通じます。

三番目にひとより早く行動に移すことです。多くの人文科学や社会科学と違って、コンピュータやスマートフォンは実学といわれるように、確かめることは難しくありません。新しいアイデアをアプリ等に実物化し、その可否性を検証することが可能です。

受験生へのメッセージ

情報の細分化・分散化が進む反面、それらを専門家の視点で整理して体系化するプロセスが若者にとって重要な成長過程になります。国際学部に様々な専門家がいますし、多くの課題を学際的・国際的視点で捉えるので、とても面白い学習ができます。従来の枠組みを超えて、変化のスピードが加速している情報化社会で生き残ることを期待してやみません。

取材協力