教員インタビュー

教員インタビュー
Vol.2 先の見えない将来をみつめて
取材協力:清水 奈名子 准教授

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国際学部の良いところ

私の目から見て、国際学部の良いところは大きく分けて3つあると思っています。

1つ目は、なんといっても「行き届いた少人数教育」です。

国際社会と国際文化の両学科あわせても、一学年あたり100名ちょっとのこの小さな学部では、一人ひとりの学生が行き届いた教育を受けることができます。多くの大学では一学年の人数が数百から数千人もいるのにくらべると、先生方と議論する時間も多く、授業も積極的に参加できます。その意味で「ぜいたくな教育」を受けることができるのです。

2つ目は、「世界に広がる教育内容」です。

小さな学部であるにもかかわらず、「国際」という言葉を聞くとイメージされやすいヨーロッパやアメリカだけでなく、中国や韓国などのアジア諸国、中東、アフリカ、ラテンアメリカなどをはじめとして、多くの地域について学ぶことができます。

同時に、日本の社会問題や文化事象に関する授業も行われていて、世界中からやってくる留学生たちと一緒に、日本について学び議論する場も用意されています。もちろん、留学制度も充実しているので、海外での経験を積みたい人にもおすすめです。

3つ目は場所にかかわることで、「東京からのほどよい距離」です。

宇都宮から東京に出ようと思えば、在来線でも2時間ちょっとで行くことができます。行ってみたい展覧会や他大学でのイベントなどに行こうと思えば、日帰りで行くことのできる距離です。また、就職活動も東京は活動圏内にあります。

それと同時に、東京の真ん中ではなくて、少し離れた地方都市にあるというのは、私はメリットだと思っているのです。

古くから大学制度があるヨーロッパではだいたい、大学は都会ではなく静かな地方都市にあります。それは、そこで何年間か自分と向き合って、仲間と議論したり、考えたりする時間を確保しているのだなと思いますね。地方都市の静かな環境にいた方が、学生時代になにか集中して取り組もうと思っている場合には、かえって良いのではと思っています。

変化の激しい世界で働く力を身につける

これらの特徴をもった国際学部で学ぶことが、はたして将来の仕事の役に立つのだろうかと、疑問に思う人もいるかもしれません。卒業生たちを見ていると、国際学部のカリキュラムは、世の中のニーズがめまぐるしく変化するなかでも、社会で活き活きと活躍するための力をつける工夫をこらしていると思います。

現在社会では、休みなく変化する技術や情報を前にして、職業的な「適応力」が求められています。そのためには何よりもまず、どんな時代状況にあっても自分の力で考え、行動できる「主体的な思考力と実践力」が必要です。

国際学部では、国際的な視野をもって、地域社会で活躍できる人材を育てるための授業を多く用意しています。いまや国際的な感性や問題意識をもった人材は、あらゆる職業において必要であるからです。

たとえば私のゼミでは、2003年のイラク戦争と国際法の関係を卒業研究のテーマにした学生が、有数の化粧品メーカーに就職しました。また、アフガニスタンの内戦問題を研究した別の学生は、ホテル業界で活躍しています。

どのような問題があり、それについての情報を集め、さまざまな意見をふまえて、自分なりの考えをまとめていく訓練を学生時代にしっかりしていった卒業生たちは、時代やニーズが変化するなかでも、たくましく活躍してくれています。他の多くの卒業生を含めて、社会の隅々に国際的な息吹を吹きこんでくれる卒業生たちを、大変誇らしく思っています。

国際機構という窓から世界をみる

つぎに大学で何を学ぶのかについて、お話ししましょう。私が研究している「国際機構論」とは、国々が集まって、一つや二つの国だけでは取り組むことがむずかしい問題、たとえばどうやって戦争を防ぐのか、ひどい貧困や差別の問題をどうするかなどといった問題を、国々が共同で解決するために作られた国際連合(国連)などを通して、考える学問です。

「国際機構論」などの本の写真

中学・高校時代のころから、なぜ戦争が起きるのかとか、世界の各地でたくさんの難民と呼ばれる、故郷を追われて行き場のない人々がどうしてうまれるのか、といった問題に興味をもっていました。

ところが大学で勉強するようになって、漠然と考えるだけではなく、なにか考える枠組みや方法をみつけないと、ただこれらの問題が山積みになるだけで、その前で「もうどうしようもない…」と悲観的になってしまうだけだということに気がつきました。

「分析枠組み」という言葉がありますが、それは自分が世界をのぞくときの窓枠のようなものです。どのような窓から世界をみようか考えていたときに、大学で「国際機構論」の授業を受けて、この窓から世界を見ていきたいと思うようになりました。

いま主に研究している国連というのは、世界中の問題を扱う機構です。ですから、国連を研究するということは、世界全体が今後どういう方向に進むのかということを考えることにも、実はつながっています。

世界全体を活動対象とする国連がなぜ生まれて、そこにはどのような制度があって、21世紀にはどういう仕事ができるのか、またはできないのか。このように、国際機構を通して世界の問題をみていきたいと考えたのです。

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中学・高校時代と「先の見えない将来」

「国際機構論」の研究をしたいと考えるようになった理由ですが、それは私が育ってきた時代と深く関係していると思います。中学・高校時代を過ごした1980年代終わりから90年代にかけては、国内ではバブル経済がはじけて「失われた10年」に突入し、世界的には冷戦が終わる混乱期にありました。

中高生にとってのその時代は、「先の見えない将来」といったイメージでした。いまの中高生の皆さんも、同じような思いをもっているかもしれません。自分は将来どのように生きていくかを考え始める時期に、先の見えない不安感が社会に広まっているように感じていました。

インタビューの様子

小学校時代のバブル全盛のころは、遊び疲れた大人たちが朝帰りする逆方向に登校するような時代でした。しかしバブルが崩壊し、空きビルやホームレスの人たちが増えていくのを見て、大人たちの狂乱パーティーの後片付けを、自分たちは将来しなくてはいけないのかと、ひどく憂鬱な気持ちになったことをおぼえています。

無責任な大人たちが作った社会を引き継ぐことはできなさそうだし、かといって今後どうなるか分からないなかで、カルト宗教に頼る若者が増えて、オウム真理教の事件が起きたりしました。このような混乱した社会を背景にして、将来をどう考えればよいのかわからなくて、とても不安になりました。

そして、自分がこの先どう生きていくかというのは、自分の希望や思いだけでどうにかなるわけではなくて、社会が今後どういう方向に向かっていくのかと深く関わっており、そしてそれは世界の情勢とも密接に関わっているということを、考えないわけにはいかなかったのです。

冷戦の終わりを目撃して

世界の情勢まで考えたのは、やはり中学生のころがちょうど冷戦が終わろうとしていた時代だったからだと思います。ベルリンの壁が崩壊し、また湾岸戦争という冷戦後の世界の方向性をきめる戦争が起きたりと、世界的な出来事が次々と起こった時期でしたので、国際的なニュースにふれる機会が多くありました。

大人たちが「これでついに冷戦が終わる」とか、「ソ連が崩壊した」という話を熱心にしていて、自然とその意味を知りたいなと思ったのですね。 たとえば、ソビエト連邦が崩壊するのがちょうど冬休みに入る時期だったのですけれども、その時に、今なくなろうとしているソ連とはどういう国なのか知りたくなり、図書館に走っていってソ連についての本をたくさん借りてきて、冬休み中に熱心に読んだ記憶があります。

ちょうどさまざまな問題意識が芽生える時期に冷戦の終わりを目撃したことが、自分が生きている社会と世界のつながりを考えるきっかけとなったのだと思います。

アウシュビッツをたずねて

アウシュビッツ第2収容所の門の写真

自分がどう生きていくか、ということと、生きている社会の在りかたは切り離せないのだ、という思いをさらに強くしたのが、大学時代の学習旅行での、ポーランドにあるアウシュビッツ強制収容所への訪問でした。これはその時に撮ってきた写真です。

ナチスドイツがユダヤ人を絶滅させるために作ったこの収容所では、殺りくのために使われたガス室などが残っていて見学することができました。当時使われたガスのせいで変色した壁には、ガスの中でもがき苦しんだ人々がつけた爪あとが生々しく残っていました。

これらの戦争の跡をみて、人間はこんなにひどいことまでしてしまう可能性があるのだ、ということを見せつけられた気がしました。それはナチスドイツだけの問題ではなく、もし自分がその時代に生まれていたら、それも弱い人々を踏みつける側にいたら、自分も喜々としてその戦争に参加して人々を殺していたかもしれないと、真剣に思ったのです。

つまり、個人がどんなに良く生きたいと思っても、生きている社会が戦争や差別を求めて進んでいけば、個人は抵抗できないのではないかと考えたのです。だからこそ、人がどう生きるのかという問題と、世界や社会の出来事はどう関わってくるのかについて、自分なりに考えたいと思うようになりました。

受験生へのメッセージ

いまの中高生のみなさんのなかにも、きっと「先の見えない将来」に不安をおぼえている人がいると思います。その不安をバネにして、興味のある問題を枠組みとしながら、社会や人間について考えることを、ぜひ大学時代に経験してほしいと思っています。

ひとりで考えていても、出口の見えない問題もたくさんあるでしょう。世界中の問題を扱う専門家から学ぶことのできる国際学部では、そうした問題を考え続ける力を身につけるための環境を用意しています。また大学は、一緒になって話し、考え、行動する友人たちとの出会いの場でもあります。

私も、宇都宮大学の国際学部でしか学ぶことのできない、オリジナルな授業を用意して待っていますので、ぜひ楽しみにしてきてください。一緒に考えていきましょう。