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 東日本大震災発生から3日後、会社を辞め、宇都宮大学で出会った親友と、彼の実家のある宮城県南三陸町に車で向かった。実家は津波に流され、祖父は行方不明。泣き崩れる親友にカメラを向けた。
 「なぜカメラを向けるのか」、いまでも葛藤がある。「でも、そこで彼の肩を抱いたところで、写真を撮らないというのは、何か違うような気がした」
 『3・11』の混乱の中で、小原一真さんは、フォト・ジャーナリストとしての第一歩を踏み出した。
(取材協力/国際学部国際社会学科2年・平松舞、同・西川明子)

 

【左の写真】
本紙取材協力班、平松 舞(写真右)と西川明子(中央)の後輩二人からインタビューを受ける小原一真氏(左)
(宇都宮大学「UUプラザ」の「小原一真写真展」会場にて/2012年5月19日)

近くに感じてもらいたい

 震災発生時、金融機関の営業マンとして京都にいた。職場のテレビから津波の映像が流れて来た。2カ月前の正月に訪ねたばかりの親友、阿部和也さんの実家がある南三陸の光景が頭をよぎる。すぐに現地に行きたかった。

 4月からフォト・ジャーナリストとして本格的に活動することを決めていた。前倒しの退職が14日に認められ、その日の夜、自宅のある大阪を発ち、東京で働いていた和也さんと合流した。

 「東北の人間として、被災地への思いを繋ぎとめておきたいと思った。地理的に遠い、近いではなく、実感として感じられるかどうか。だから、遠くにいる人に、できるだけ近くに感じてもらいたいという思いで写真を撮った」。最初の被写体が和也さんだった。

 それから1年。小原さんは、ヨーロッパで大きな反響を呼んだ福島第一原発内部や、そこで働く作業員たちの姿を撮影した初めての写真集を発表した。大切な友人が悲しむ姿にレンズを向けた自分が嫌に思ったことがある。でも、「この写真があったからこそ、その後、被災地の人たちともきちんと向き合って撮影することができた」という。

中心になるのは僕たちの世代

 「戦争をなくすことは可能か」。この宇都宮大学国際学部の推薦入試のエッセーのテーマが、フォト・ジャーナリストという存在を強く意識するきっかけだった。

 エッセーをまとめるため、戦争関連の本を読み漁った。そのなかで、イラク戦争で使われたウラン劣化弾の影響による無脳症の赤ちゃんの写真に遭遇した。「日本が加担し、自分も加害者の一人と考えていた戦争で、こうした被害が出ていることに、すごくショックを受けた。それまで知らなかった現実を教えてくれる写真というものに魅力を感じた」

 大学入学後、本格的に写真を撮り始めた。メキシコを1カ月間バックパッカーで巡り、撮影した写真を授業で紹介した。アフリカのナイロビでは、スラムに入り、ドキュメンタリービデオを撮影した。

 「頻繁に海外に行くような外向きの学生が周りにたくさんいました。僕は人見知りでしたが、そういう仲間と出会い、すごく学び合えた。大学時代の友人との付き合いが、いまも、一番深い」

 この5月、母校で小原さんの写真展とシンポジウムが開かれた。小原さんは、福島原発内部や作業員のポートレートを撮影する理由を語った。「いま、僕たちが普通に生活していられるのは、作業員たちの命がけの収束作業があるから。彼らがどういう思いで働いているのか、労働環境はどうなのか、見守らなければいけない」

 そして、後輩たちに語りかけた。「将来、原発事故の収束活動の中心になっていくのは、僕たちの世代だと思います。30年、40年と収束活動が続くということは、僕たちの子どもが、将来原発で働く可能性はゼロではないのです。ですから、いま、きちんとこの問題に向き合っていかなければならないのです」

           公開シンポジウム「3.11原発事故と国際学の未来」のゲストスピーカー小原氏(左)と
           原発事故処理作業員の二人(5月19日/本学教育学部D棟にて)

「一真に撮られてよかった」

 
『RESET BEYOND FUKUSHIMA-
福島の彼方に』小原一真
Lars Muller Publishers(スイス)
■ 宇都宮大学生協にて特別販売中

 震災発生以来、1年の半分は大阪の自宅を離れ、被災の現場に立つ。

 「本当に自分がやりたい仕事なので、苦労していると思ったことはありません。楽しいといったら語弊がありますが、被災地で出会った人たちが一人ひとり魅力的だったからこそ、いまでも取材を続けられています」。初めての写真集『RESET BEYOND FUKUSHIMA-福島の彼方に』の出版も「原発作業員の人たちが喜んでくれたことが一番うれしかった」

 3月からスイスのフォト・エージェンシー「KEYSTONE」に所属する。ここが、写真を世界に発表する窓口になる。海外で認められるかどうかは、「これからの自分の撮影次第」と語る。近い将来、「ジャーナリズムをしっかり学ぶ」ため、海外留学も視野に入れる。

 小原さんは、今春、結婚した。披露の場で祝いのスピーチをしたのが和也さんだった。
 「(震災から)しばらくして、あのときの話をしたことがあります。彼自身、南三陸が何とか復興してほしいという強い思いがあったし、僕は報道という立場で等身大の被災地の思いを伝えたかった。『一真に撮られてよかった』と言ってくれました。その言葉に救われました」

■作 品
「小原一真写真展3.11」より(国際学部主催)
会場:本学「UUプラザ」、日程:5月19~25日

■フランス展示会 会場:パリ市庁舎、日程:6月20日~7月7日

          
          

   小原 一真
 【おばら・かずま】
 

1985年、岩手県生まれ。2009年、宇都宮大学 国際学部国際社会学科卒業。金融機関で働く傍ら、 Days Japanフォトジャーナリスト学校にて学ぶ。 東日本大震災直後に会社を退職、3月16日から現 地での取材を開始。福島第一原発での取材はヨー ロッパ各国で報道される。12年3月、スイスのラ -スミューラーパブリッシャーより、東日本大震 災、福島第一原発事故の取材をまとめた『Reset Beyond Fukushima-福島の彼方に』を出版。 フォトエージェンシーKEYSTONE(スイス)パー トナーフォトグラファ-。
http://kazumaobara.com/

( 取材・文:栃木文化社ビオス編集室/ 撮影:今井正明)

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