お問い合せ

宇都宮大学国際学部
〒321-8505宇都宮市峰町350
TEL 028(649)5164
FAX 028(649)5171
Mail

ホーム学科紹介 > 教員インタビュー

教員インタビュー

社会学との出会い

 私の専門は社会学ですが、現在の研究に至るまでの経緯を簡単にお話しします。

 もともと決まった学問を学びたいという明確な意志はありませんでした。理系が苦手だったことと、社会科学的なことを学びたいという気持ちがあったことから、筑波大学第一学群社会学類に入学します。大学1,2年生の時に法律や経済、政治、社会学等の授業を幅広く受けてみて、唯一おもしろいと感じたのが社会学の授業でした。その先生との出会いをきっかけに社会学を専攻することを決めました。後に指導教員となり仲人もしていただくことになります。生涯のお付き合いをしていただいている先生ですが、授業がとにかくおもしろくて引き込まれました。「出世したいなら法律を勉強しなさい。人間や社会について真剣に考えたいなら社会学を勉強しなさい」というような内容のメッセージを今でも覚えています。

    

筑波大学時代。駅伝を走り終わった直後

フィリピンの研究から自国を振り返る

    

フィリピン留学中。ホームステイ先で

 卒業論文のタイトルは「福祉国家の考察」。タイトルを思い出すだけでも懐かしいですね。

 その後大学院に進みました。就職という文字は全く浮かびませんでした。就職したら3日で身体がボロボロになるという、変な自信みたいなものがありました。厳しい環境で働いている人には申し訳ないような話かもしれませんが、自分は企業や役所での仕事は出来ないと、向いていないと真剣に思っていました。まあ、いわゆる勉強は好きだったし、先生からも何となく進められたということもありますが。

 指導教員は、当時タイなどアジアの第三世界と言われる国々を専門に研究していました。その影響もあり、私を含めたゼミの学生は全体としてアジアの方を見る雰囲気がありました。私の場合は、大学院で第三世界の開発独裁とか軍事体制に関心があって文献研究を進めていたのですが、どこかフィールドを決めることにして、先輩にフィリピン人留学生がいたこと、英語が通じる国であること、物価が安いという理由からフィリピンを選びました。かなり偶然的な要因で決めてしまったことは確かです。フィリピンには半年ほど留学して、その後も行ったり来たりしながらフィリピンの政治について修士論文と博士論文を書きました。

 しかし、「何のためにフィリピンの研究をしているのか?」という疑問も引きずりながらの作業でした。そして博士論文が完成した時に改めて「これでいいのだろうか」という疑問が自分の中で湧き起こりました。テーマも研究方法も、これではダメだ!というようなかなり根本的な落ち込みでした、そしてある教員から「なぜ日本ではなくフィリピンを対象にするのか。『貧困』に関心があるのならばフィリピンではなく田巻君の出身地の夕張も同じく貧しい地域ではないか。日本にも様々な地域があるのだからもっと目を向けてみたらいいのではないだろうか」という趣旨のことを言われました。さらに、フィリピンの研究中にある韓国人研究者から、「夕張には昔、たくさんの朝鮮人がいましたよね」と話しかけられましたが、私はその事実を全く知りませんでした。

 要するに、フィリピンのことはある程度分かったけれど、日本のことをほとんど知らない自分に気付かされ、目の付けどころを変えなければいけないと感じたのが30歳くらいのころだったでしょうか。今から思えば、気づくのが随分と遅かったと思いますが、致し方ないですね。

    

フィリピン留学時代の写真

ホームレスの現実と向き合う

 自分の身近な問題に目を向けようと考えた始めた時に、当時住んでいた名古屋で「ホームレスの世界を体験してみませんか」というような内容の新聞記事を見つけました。何となく魅かれて一泊二日の合宿に参加しました。そこで、たくさんのホームレスの人々(以下、ホームレスと略)が路上で寝ているとか、普段よく通っている場所で炊き出しが行われているとか、まったく今まで知らなかった現実が少し見えました。合宿後も、せっかく関わったのだからもう少しホームレスの世界を知りたいと思い、研究というよりもボランティアとして活動に関わり始めました。

 そこで見えてきたのは、まず、労働問題です。一般的なイメージと違って、働く意欲はたくさんあるのに職が得られない、または病気や怪我で働けないホームレスがたくさんいました。日雇い雇用の問題も見えてきました。

 また、相談に行くホームレスに付き添って毎週福祉事務所に通っていたのですが、生活保護制度の矛盾に気付きました。家を持っている人と持っていない人を比べると、家を持っていない人の方が貧しいはずです。が、この制度はホームレスには極めて厳しいのです。Mさんという方がいました。痩せていてよく風邪を引く人で、自分で病院に行くお金がないから、受診の相談に福祉事務所に行きます。福祉事務所は、受診の相談には比較的簡単に応じて、医療扶助をかけていました。ただ、病院へ行って受診して薬をもらってきたら、そこで扶助はおしまいです。もらってきた薬には「食後服用」と書いてありますが、Mさんは食事するお金を持っていません。そんな時にMさんは水をがぶがぶ飲みながら薬を飲んでいました。非常に印象的な思い出の一つです。風邪を治すには「栄養と休養」が大事であることは常識と言えるでしょうが、福祉事務所はそこまでは面倒を見ないわけです。また、身体はなんともないけど仕事がなくて生活に困って野宿しているのでなんとか面倒を見てくれないかという生活相談に対しては、健康な人は自分で仕事を探してくださいという論理で、福祉事務所は窓口で対応を拒否していました。 さらに、一般市民がホームレスに向ける冷たい視線を感じました。多くの人々は「自業自得」や「怠け者」という見方をしていました。ホームレスが襲われたり、寝る場所を奪われたりするという現実も知ることとなりました。

 ホームレス問題と向き合う中でどんな研究ができるかを考え始めたのが、1990年くらいでした。ちょうど日本でホームレスが増え始めた時期です。そして、外国人が増え始め、日本の国際化、地域の国際化が叫ばれ始めた時期でもあります。私の指導教員もその頃は外国人労働問題を研究していましたから、その流れで私も日本に暮らす外国人労働者の問題と向き合うようになりました。このように90年代の頭くらいからは、主にホームレス問題と外国人労働者問題の二つをテーマにしてきました。

     
  自然災害と国際協力―
  フィリピン・ピナトゥボ
  大噴火と日本/
  田巻松雄(共編著)/2001年

 フィリピンとの関係が切れたわけではありません。1993年には、外務省より、フィリピンに対する日本政府の経済協力(ODA)についての「有識者評価」を委嘱される機会がありました。大学研究者の目から、日本の経済協力の意義や課題を検証するという仕事です。チームを組んだ方と相談して、1991年に大噴火を起こし20世紀最大の災害と言われたピナトゥボ火山災害を取り上げることとしました。当初は日本政府の経済協力だけを取り上げましたが、その後、チームのメンバーも増やして、民間の援助も視野に入れて日本の経済協力全体を検証する仕事に発展させました。2001年に『自然災害と国際協力 フィリピン・ピナトゥボ大噴火と日本』という本を出版しました。何か、こうやって話していくと、懐かしさオンパレードですね。

    

ピナトゥボ調査で訪れたスイス・ジュネーヴで

「HANDSプロジェクト」の事業内容

 「HANDSプロジェクト」では様々な支援事業を行っていますが、ここでは主な事業を紹介します。

 一つ目は、「外国人児童生徒教育支援学生ボランティア派遣事業」です。日本語を母語としない外国人の子どもたちにとって、日本の学校に通って授業を理解するのは非常に難しいことです。そこで、宇都宮大学の学生を学校に派遣して日本語指導や教科指導を行っています。派遣学生のなかには自分自身が外国籍で日本の小中高で学んできた学生や留学生もいます。

    

宇都宮大学の学生が小学校の授業に入って個別に指導を行う

 二つ目は、「多言語による高校進学ガイダンス」です。今は、日本人の98%が高校へ行き、そのうち50%が大学へ行く時代です。今の日本の社会では、中卒だと安定した職を得ることはほとんど無理で、不安定な生活に陥りやすくなります。私としては外国人の子どもたちにもなんとか高校までは行ってもらいたいという思いはあるのですが、進路は一人一人が決める問題ですので無理強いはできません。そこで、少なくとも高校受験を考えてもらうための情報を、日本語を母語としない子どもたちとその保護者に提供することにしました。それも、正確に伝えるために彼らの母語で行っています。このガイダンスは今年で3年目になります。

    

「多言語による高校進学ガイダンス」の様子

 三つ目は、「中学教科単語帳」です。中学校の教科書には、日本人でも難しい日本語の単語が使われています。それを外国人の子どもたちが見ても、理解することがとても難しい。そこで彼らの学習をサポートするために、難しい単語や頻繁に出てくる単語を載せた辞書を作りました。タイ語を学んでいる国際学部の学生がタイ人の子どもたちに日本語を教える活動をしていたことが、単語帳誕生の大きなきっかけとなりました。現在、タイ語とスペイン語、ポルトガル語があります。

 また、中学校を卒業した子どもたちの進路調査も行っています。このようにいくつかの事業から「HANDSプロジェクト」は成り立っています。

         

(写真左から)「中学教科単語帳」タイ語、スペイン語、ポルトガル語

宇都宮大学HANDSプロジェクト だいじょうぶnet. ⇒ http://www.djb.utsunomiya-u.ac.jp/

後編へ...

取材協力:田巻 松雄 教員プロフィール

このサイトについて個人情報の取扱い等に関する基本理念