教員インタビュー

教員インタビュー
Vol.9 視野を広げて、自分で考える
取材協力:中村 真 教員

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心理学への入り口

私の専門は大きく言えば心理学ですが、その中でも感情心理学とか社会心理学という分野です。人間が社会的な生き物だということを前提にして、人間の心と行動について考えるのが、社会心理学です。そして、感情は、人と人とが影響し合っているときには必ず問題になってくるもので、その感情がコミュニケーション場面でどんな働きをしているかに興味があり、表情と感情の研究をしてきました。

子どものときから自然や生き物が好きでした。身近にいろいろな生き物がいて、犬、魚、金魚、ザリガニ、蟻、カブトムシ、インコ、鶏、ウサギ・・・同時にではありませんが、かわるがわる飼ったりしましたね。牛がいたこともありました。動物や生き物に興味をもって育ったので、人間の行動を観察する研究がおもしろいと思うようになったのかもしれません。

生物学を学びたいと考えたこともあるのですが、人間の行動に興味が移っていきましたので、大学では心理学を選びました。生き物を観察するような研究がつづけられたらいいなあと、高校生くらいから考えていたように思います。将来の職業を考えて大学で学ぶ専門分野を選ぶようなことを、今から振り返ってみると意識もしないでしていたように思います。

ファーブル昆虫記の表紙
ファーブルが昆虫の行動の謎を解き明かしていくのが面白く、何度も読み返しました。

大学から大学院

私は人間科学部という学部に入りました。大学1,2年生のときは専門分野には分かれず、3年生になるときに、心理、教育、社会・人間学の3分野から選択するというシステムでした。ですから、1,2年のときは、心理学とは関係のない、他分野の授業もありました。また、自分の興味で、理学部の生物実験に参加させてもらったり、比較行動学の本を読んだりもしていました。身につきませんでしたが、外国語は、必修の英語とドイツ語の他に、フランス語とロシア語のクラスにも出たりしました。

その後、3年生になって初めて研究室に所属しました。実験心理学の研究室だったのですが、そこも、様々な興味を持った先輩がいましたので、心理学の中の分野ではありますが、知覚、記憶、動機づけ、発達、人格などに関するいろいろな話を聞くことができました。結局、私自身は、その研究室では誰も取り上げていない「表情と感情」というテーマに興味を持ちました。

きっかけは、実はよくわかりません。研究室のゼミで、自分が研究したいテーマの論文を紹介しなければならなくなった時にいろいろな本や論文を探していて、たまたま見つけたのです。感情がどういう風に顔に表われるか、表情からどのように感情を判断するか、そういう研究がおもしろいと思ったわけです。星の数ほどある研究の中から、表情の研究が目に留まったのは、もしかすると動物の行動を観察するのが好きだったことと関係があるかもしれません。

大学院への進学は、研究を続けたいと思っていましたので、ある意味で当然の進路と考えていました。幸い、奨学金をもらうことができましたので、在学中に1年半余り、アメリカ東部の大学で、感情のコミュニケーションの勉強をしました。ちょうど、ゼミで初めて発表した論文の著者が指導をしている大学院がありましたので、そこに行くことにしたのです。当時は手紙を書いて、入学手続きなどを進めました。TOEFLなど各種試験の受験、ビザの取得なども含めて、留学するための形式的な手続きが大変手間のかかることでしたが、その苦労が、国境を越えて他国で学ぶことの最初のハードルだったように思います。

指導教員との写真
指導教員と
握手をしている写真
奨学金スポンサーのミーティングでスピーチをしたりしました。

留学中の勉強は、よく言われるように、多くのリーディングの課題で寝る間もない毎日でしたが、自分の専門に関する内容でしたから、大変ではあっても楽しくやっていたように思います。そこで勉強し、研究した、表情と感情コミュニケーションが、その後の私の研究テーマになり、今でもその研究を続けています。

周辺の風景
海をバックに撮影
アメリカで 大学周辺の様子

勉強の話ばかりになりましたが、学生時代は同級生や先輩とよく話し、遊びましたし、旅行が好きでしたので、流行りのバックパック旅行をしたりしました。一人旅が多かったのですが、釣銭をごまかされたり、警察官に追いかけられたりしたこともありました(私が悪いことをしたわけではありませんが)。いろいろな状況に自分で対応しなければならず、このような経験がその後の人生で役に立っているように思います。

様々な場所での記念写真
様々な場所での記念写真
様々な場所での記念写真
バックパックでの一人旅
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研究っておもしろい

ところで、心理学の実験というと、どんなことをするのか不思議に思う人も多いと思います。私の場合は、表情の写真やビデオを見てもらい、どんな感情を表していると思うかを判断してもらったり、何段階かで強さを評価してもらったりします。実験といういい方は少し大げさかもしれませんね。

私は表情と感情を専門にしているので、感情をどのように表すかや、表し方についての考え方が文化によってどう違うのかを調べたりもしています。研究室には、感情の表し方について、日本と韓国、日本と中国、日本とロシアを比較して論文を書いた学生がいます。また、国内の地域で、宇都宮と沖縄を比較した学生もいました。なかなか予想したような結果になりませんが、どうして思うような結果にならないのかを考えることも含めて、学生たちとわくわくしながら研究しています。

先生の写真

研究については、学際的なものに力を入れたい。自分の専門分野に留まっていたのではうまく説明したり、分析したりできないこともあります。なぜ人間がこのように行動するのかを説明したいのなら、専門の心理学だけでなく、いろいろな分野をうまく隔合するような形で、交流しながら研究したら、これまでにないおもしろい成果が出てくると考えています。最近、アメリカの研究者が書いたスマイルをテーマにした本を翻訳しましたが、表情の1つであるスマイルは、まさに、人間の心理から、発達、教育、ビジネス、政治、文化、性、病気、文学、生物学など、ありとあらゆる分野にまたがる問題と関係しています。

学会をのぞいてみよう

5月末から6月にかけて、私が所属している日本感情心理学会の年次大会が宇都宮大学で開催されます。学会というのは、同じ専門分野の学者や研究者が、自分の研究内容や成果を発表したり、研究上の協力や連絡、意見交換をしたりするための組織です。一つの分野の専門家が集まると深い話ができるのですが、どうしても視野が狭くなりがちです。そこで、今回は、「社会的共生と感情」という大きなテーマを掲げて、個人のレベルのいじめや偏見から、集団間紛争にわたるテーマを設定して、専門の違う研究者が集まって学際的に議論をすることにしました。

学会は、一般に公開することを考えていない場合もあるのですが、この大会は学生料金を格安に設定しています。せっかくの機会ですから、ぜひ、シンポジウムや講演だけでものぞいてみてください。

様々な場所での記念写真
様々な場所での記念写真

受験生の皆さんへ

宇都宮大学国際学部は、いろいろな分野の専門家が集まっていて、居ながらにして様々な考え方に直に接することができるのが大きな特徴ですし、ここで学ぶことのメリットだと思います。国際学部というと、まずは外国をイメージするかもしれませんが、日本語の専門家、日本の文化とか地域社会を専門にしている教員もいます。日本にいても、世界のどこにいても、今では外国とのかかわりを考えないではすみません。日本や、日本の地域を含む世界中の様々な地域とそこで生じている問題や課題が私たちの研究対象になります。そして、そのような様々な地域の社会や文化、言語について、またそういった地域と地域の関係を調整する法や政治、経済などのシステム、制度、哲学、思想などについて学ぶことができるのです。

先生の写真

ただし、何をどのように学ぶのか決めるのは、皆さん自身です。受験生の皆さんには、ぜひ、自分で考えることを大切にして欲しいですね。近年は、社会が効率を優先するあまり(皆さんの責任ではありませんが)、皆さん自身が考え、選択する機会があまりにも少なくなっているように思います。勉強も大学を選ぶのもそうですし、将来について考えるときもそうです。与えられるものが多すぎて、自分で考える機会が減ってしまった。

用意され、与えられたものだけではなく、自分から積極的に情報を得るよう意識して欲しいと思います。そうして手に入れた情報を活用して、自分で判断してみてください。たとえば、今では多くの大学でHPを開設していて、そこにどんな教員がいて、どんな講義が開講されているのかを調べることができます。教員の名前から、著書や論文を調べることもできますし、そうして調べた情報を自分なりにまとめて、進路判断の材料にすることもできます。まずは宇都宮大学国際学部のHPから始めてみてはいかがでしょう。(あえてリンクは貼りません。自分でいろいろ調べてみてください。)

取材協力