教員インタビュー

教員インタビュー
Vol.8 関心を持つということ
取材協力:重田 康博 教員

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3つの社会

国際NGO論と国際協力論が自分の専門科目です。

世界や発展途上国の貧困の問題、農村の食料自給問題、環境の問題、女性の差別問題、子どもの教育や保健医療の問題、平和の問題、人権の問題など、そのような問題解決のために活動する国際NGOやグローバル・ガバナンスに焦点をあてて講義しています。

NGOは、Non-Governmental Organizationsの略称で日本語では、非政府組織とか市民組織といいます。市民社会の人々で構成される団体・組織です。

ヨーロッパでは、古くからNGOが活動し、19世紀中頃の国際赤十字運動が結成されました。欧米でのNGOの活動は日本よりもずっと盛んで、日常生活に溶け込んでいます。日本ではまだ、政府と企業という2つの社会の存在が大きいですが、欧米、ヨーロッパではもうひとつ「市民社会」というセクターが存在していて、そこでNGOとかNPO(Non-Profit Organizationの略称、非営利団体)、公益財団などが活動しています。

関心の深いヨーロッパ

フェアトレード・ショップの品物とラベル

フェアトレードという言葉をご存知ですか?知らない方もたくさんいらっしゃるかもしれません。現在の貿易は、経済的にも社会的にも立場の弱い途上国の人たちにとって、公正な貿易ではなく、ときに貧困を拡大させることもあります。フェアトレードとは、適正な価格で取引を行うことで、途上国の生産者の自立を応援する活動です。いわば産地直送のグローバル版です。

フェアトレード財団というイギリスのNPO団体があって、その団体によって基準が守られていることを立証、認定された商品には、フェアトレードマークが貼付されています。フェアトレード財団は、日本にも支部があります。

イギリスでは、普通のスーパーマーケットにフェアトレードマークがついた商品が並んでいます。日本では、このような商品を取り扱う専門のお店でないとなかなか見ることができません。それだけ日本ではフェアトレードに意識が低い、関心がないということですね。途上国の方を向いてないんです。向いていても、最近日本はフェアトレードではなく、BOP(Base of the Pyramid)のビジネスの市場として途上国を考えています。

栃木県内、宇都宮市内にもフェアトレード・ショップが少しずつ増えています。といってもまだまだ数えるほどですが。日本の中間業者、フェアトレードを専門にやっている団体や企業を通して仕入れて、それで嗜好品、民芸品などを売っています。

フェアトレード商品は、生産者にもちゃんと利益が配分されていたり、地球環境や生態系を守る農法で生産されていたりして、金額が少し高かったりしますから、仕事としてやるためには、収入面でなかなか難しいことがあります。その点、イギリスでは過去の植民地支配の歴史の関係もあって、イギリス人はフェアトレードへの関心と共感があります。

知ってもらうために

セミナーの様子

今年で5回目になりますが、グローバル教育セミナーを毎年開いています。昨年のテーマは、まちづくりやフェアトレードをテーマにしました。フェアトレード・ウォークという活動に宇都宮大学のサークルや学生NGOが参加して、フェアトレード・ショップを取材をします。お店の方にインタビューして、その内容をセミナーの中で発表することで、大学生にもフェアトレードを身近に感じてもらうのが狙いです。

クリスマス会の様子

福島乳幼児妊産婦支援プロジェクト(FSP)という活動もしています。東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故後、放射能汚染による健康被害の不安を抱えて避難している乳幼児や乳産婦のニーズを把握し、そのニーズに対応できる団体との連携した体制のもと、これら避難している方々や子どもの支援を行うことを目的にしています。福島から逃げてきた方でも、自主避難とそうでない避難とでは、待遇が違ったりします。栃木に来てからの生活をどうするか、帰りたくても帰れない・・・県外避難の方々をフォローする活動です。群馬大や茨城大、他にも首都圏にある東京外国語大学と連携して、ニーズ先を探したりニーズ先の調査をしたりと、支援を繋げる役割をしています。他にも報告会や座談会などを開いたり、アンケートしたり、直接お話を伺ったりもします。クリスマスにあわせて、子どもたち向けにクリスマス会をやりました。原発による放射能汚染地域から一時的に離れたり避難している親や子どもたちが集める場づくりというのは大切なことです。子どもを保養する受け皿を作ったり、こうした方々の悩みの相談や彼らの実情を発信しています。

また、スリランカでサルボダヤ運動というNGOが活動しています。A.T.アリヤラトネさんという、高校の先生が1958年に貧しい村で始めた農村開発運動です。要するに村おこし。それが時代とともに国際NGOとなって、今では1万5千の村を対象に農村開発をしています。この9月にもサルボダヤの活動の調査、視察に行きました。サルボダヤの本部は首都のコロンボから車で1時間半くらい走ったモロトワにあり、プロジェクト本体は全国各地の農村にあるわけです。残念ながら1万5千の農村全部は回れません。一部、限られたところだけですが、蚊取り線香と虫刺されの薬を持って視察しました。昨年は国際学部の学生を2名引率して、サルボダヤでワークキャンプを行い、インターンシップも実施しました。

ワークキャンプの様子
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影響を与えたカンボジア情勢とインドシナ難民流失

1970年代後半私が学生のころ、カンボジアでのポル・ポト政権によるカンボジア人への虐待と約150万人の虐殺という衝撃的事件があって、カンボジアの人々の悲惨な出来事や大量のインドシナ難民の流失問題をきっかけに国際的な問題に関心を持つようになりました。その後、アジア太平洋資料センターという団体で、NGO活動やアジアの貧困などをテーマにした講座に出席して、当時の大学ではあまり教えてくれなかったNGOのことを知るようになりました。今の学生は、大学でNGOとか市民社会のことを教えてもらえるし、大学のNGOサークルもあるので、すごくうらやましいです。

カンボジアでの現地の人との記念写真

その後、カンボジアには1988年に初めて行くことができたのですが、そのときもまだ政府とポルポト派との内戦状態が続いている状態でした。治安も良くない、生活にも支障をきたしているカンボジアの人々にとって大変な時代でした。今のカンボジアはその頃とはだいぶ変わって、首都のプノンペンにもどんどんビルが建っている状況です。外国資本、特に中国や韓国、はるかに遅れて日本の企業が入って、猛烈な勢いで経済成長しています。ただ逆に貧富の格差、開発による格差というのが問題になってきていて、都市のスラムとか、都市と農村の人口格差、農村が貧しくなって農民が土地を売ったりタイに出稼ぎに行ったり、農民が疲弊したりということがあります。日本の資本が遅れた理由は、それまでカンボジアを政府やNGOによる援助対象国として見ていて、カンボジアを本気で商売相手とは見ていなかったからです。

アジアを旅し自由に過ごしていた大学時代

高校の授業と違って、大学というところは自由というか、自分が主体的に学ぶということでは、すごく新鮮でした。やっと高校の勉強から開放されたってこともあります。高校までは集団で強制的に勉強しなきゃいけないとかあるじゃないですか。大学では好きな教科が自分で選べるのはすごくいいことです。

インドの風景をバックに撮影
インドの風景をバックに撮影
学生時代 夢中になっていたインドへの旅

私が大学生のときは、アジアにとても関心があって、特にインドとかタイに行くことに夢中でした。当時、藤原新也さんの「インド放浪」や「全東洋街道」って本が流行っていて、僕らの世代はインドとかタイに行くのが憧れだったんです。バイト代を稼いで、ガンジス川に行ってボートに乗ったり、インド国内をのんびり放浪していました。もともとバックパッカーというか、国内旅行は一人でよく行ってましたので、インドやタイに行くときも親は協力的でした。

学生のときは、ぬるま湯でしたね。結構のんびりしていましたから、甘さがありました。なので、社会に出てから切羽詰りました。自分のやりたいこと、アジアのことや国際協力のことなど、大学出たらやりたいと思っていたことって、すぐに仕事としてできるわけじゃありません。自分の意識と社会の間にギャップがありました。今とはキャリアプランの点で違います。大学出てから10年くらい辛抱強く、粘り強く意思を持ってやっていないと、国際協力の世界では続けていけないし、生き残っていけません。私は大学を出てから大学院に行き、修士号と博士号を取得しました。20代っていうのは、そこで大体の人の一生の仕事が決まりますから、人生の中でもとても大切な時期なのです。だから大学時代はいろいろと自分の可能性を模索していい、あるいは卒業して仕事をしながら自分にあった仕事を見つけてもいいと思います。

インドやタイ旅行の写真
インドやタイ旅行の写真
インドやタイ旅行の写真

長い目で歴史を見つめる

NGOの発展の奇跡 重田康博 著

授業中では学生に具体的事例を紹介します。国際協力活動とか、グローバリゼーションの影響と負の側面のこと、なぜこうなるのか、解決のためにはどうするのかというのを市民社会の側から、どう捉えるのかなど。たとえば、NGOが始めた地雷廃絶キャンペーンでどのようなネットワークを活用して、地雷廃絶の条約を作ったとか、具体的な例を挙げて説明します。若い人は知らない人も多いと思いますが、他国が攻めて来たら、戦争になってしまったら・・・自己防衛のために日本も地雷を作っていたのです。NGOが最初に呼びかけてその後カナダやノルウェーの政府が中心となって、日本もその呼びかけに賛同して、数年かかりましたが、日本も条約に加盟して地雷を廃絶しました。でもそれがすべてではありません。100%解決したわけではないのです。しかし、米国、ロシア、中国の軍事大国はまだその条約に加盟していないし問題というのはそのときだけじゃない。そこの現象だけを見るのではなく、第一次・第二次世界大戦、戦後の冷戦を含めて国家による戦争と市民社会の動きについての歴史をここ100年くらいで捉え、そういう目を養うようにしなければいけません。

国際学部の魅力

学生をNGOやODA(政府開発援助、Official Development Assistance)の現場に連れて行くことがあります。開発の現場を具体的に見るのと見ないのとでは全然違います。現場に行ったことによって、意識して気付くようになります。国際学部の学生は一人で活動の現場に行く方も多いですね。宇都宮大学には学生NGOのカケハシーズやリソースネットワークなどの受け皿もたくさんありますから、そういう団体の活動を通じて学生は現地に行ったりしています。

重田康博 先生

学生が自主的に活動するために、国際キャリア開発プログラム、福島乳幼児乳産婦支援プロジェクト、サルボダヤ運動参加などインターンシップを行う国際キャリア実習などもあります。海外に留学先や提携校もありますから、自分の道というか、キャリアプランの形成の観点から留学先やインターンシップ先を選択できるという利点はあります。宇都宮大学では50くらいの海外の大学と提携しています。国際学部の学生は社会科学や人文科学系の大学に留学することが多いですが、中にはタイの大学やインドネシアの農科大学に留学した学生や提携先の大学から来ている外国人留学生もいます。日本語ができる留学生や全くできない交換留学生もいるし、もちろん自費で来ている留学生もいます。

このように宇都宮大学には、たくさんの留学先やNGOなどの受け皿があります。ぜひ皆さん来てください。宇都宮大学国際学部でお会いしましょう。

取材協力

  • 重田 康博 教員