教員インタビュー

教員インタビュー
Vol.3 多角的考察力を身につける
取材協力:阪本 公美子 准教授

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タンザニアという国

アフリカの地図

初めに、私が仕事で滞在していたタンザニアという国について少しお話しましょう。みなさんはタンザニアがどこにあるか知っていますか? アフリカ東部にある国で、ドイツそしてイギリスの植民地でした。植民地から独立したころは、アフリカ的「家族」というモデルを国の政策に取り込んだ「ウジャマー社会主義」をとっていました。この政策によって、国の言葉としてスワヒリ語を国民の教育に取り入れることができ、人々に国民という認識を植え付け、内部紛争がなく治安が安定したということが成功例としてあげられています。しかしその一方で、みんなを平等に貧困にしたという批判もあります。かなり強制的に人々が移住させられて村が形成されたために、タンザニア南東部では今までの母系的社会が完全にバラバラになってしまったという現状もあるのです。

転機 -国際機関職員から教員へ-

そのような国に滞在していた私が教員へ転身したきっかけは、理論で考えていたことと、現実の地域コミュニティーの思考との間にズレを感じたことです。つまり、現在私が研究している社会開発や人間開発の対象であるコミュニティーや人を、現場で見ることが難しかったのです。国際機関職員としてのミッション遂行の前提条件から自由になり、普通に生活をしている人々の価値観を知りたいという思いでした。研究をはじめ、伝統的には母系的社会で、しばしば貧困層として語られる離婚した女性や未婚女性の多くの人が元気なのですが、そのギャップを理解するためにも、現在は女性世帯主世帯の研究もしています。それを学生に伝えていくことができるということが楽しく、教員は有意義な仕事だと思っています。

角度を変えて物事を見る

タンザニアの村の画像

もちろん、国際機関で働いた経験は大いに役に立っています。実際にタンザニアの村に行くと、いかに国際機関のプロジェクトが役に立っているかということを現地の方から聞くこともありますし、何よりも政策提言の役割は重要だと感じます。理論上の考察と現場での経験は、どちらが良いとは一概には言えないものがあるのです。

そこで、私が国際機関への就職を希望した理由をお話しましょう。高校のころから、国際機関には授業をきっかけに関心を持ちはじめました。学生のころには「貧困」など南北問題の関心が深まり、そこから国際機関への就職を目標に励みました。院では、人間開発という発展の理論を研究したのがきっかけで、より具体的に働きたい国際機関が定まりました。世界には発展途上国といわれる国がたくさんある中で、なぜアフリカに興味を持ったのか。南北問題を考える上で、世界で一番貧しいと言われているという意味で、アフリカに関心を持ち始めました。物の生産が他国よりも乏しい、GDPが低いという意味ですね。

アフリカの楽器の画像

しかし、そのことがかえって素晴らしい人間関係や人の手技、また生活力を生み出し、むしろ日本の方が貧しいのではないかと思わせることもたくさんあります。これらの現象が一番顕著に表れている例が、アフリカにあるのではないかと思ったのです。貧しいと言われている中で、良いものが残っているという部分が、私とアフリカを繋ぎ続けている理由なのかもしれません。

実際、国際機関で働くということは、日本国内ではなかなか味わうことのできない経験ができたと思います。その代表例は、いろいろな国の人と働けるということです。仕事の関係で他国の人たちと触れ合うことができたというのは、非常に楽しく刺激的な経験でした。このような経験からも、仕事内容だけでなく、日々の生活においてもどちらにも良い点があるのです。ですから、いろいろな立場や角度から物事を見ることは大切なことだと感じます。

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私の学生時代と宇都宮大学の学生

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このように、国際機関に入りたいと思いながら学生時代を過ごしてきたのですが、その過程で本を読んで感銘を受け、その先生に指導を受けたということが大きな転機でした。今では論文もインターネットで見ることができますし、新しいデータ、特に統計的なデータをインターネット上で得ることはよいことだと思います。しかし、一方でインターネット上に出ている情報は断片的なものが多く、体系的に考察をしているという意味では本はやはり重要なのだと思います。本になる過程までに、単なる知識だけでなく、考察なども含めて、断片的ではなく相対的に理解できるという意味で本の良さはインターネットに勝るものがあると考えます。双方を上手に利用することが大切です。

宇都宮大学の学生についてですが、元気とやる気があると思います。特に国際学部の学生はとてもやる気があって、質問もすぐに出てきますし、それぞれ問題意識を持って考えようとしているところが特徴的だと思います。留学をしている学生もたくさんいますよ。私自身も学生のころ、海外へ行き、日本の援助プロジェクトを見るなど、とても良い経験をしました。ぜひ多くのみなさんにこのような経験をしてもらいたいと思います。就職活動などを考え、留学を躊躇する傾向もあるようですが、大学には交換留学などたくさんの制度がありますので、大いに利用して自分のペースで学んでもらいたいです。

世界との繋がり

留学など海外に出る経験によって、もちろん世界との繋がりを感じることができます。それと同様に、普通に生活している中でも、発展途上国を含めて、いろいろな地域と繋がっていることを実感できる機会はたくさんあります。典型的な例は食べ物ですが、普段飲むコーヒーや紅茶はどこから来ているのか、その生産はどのようになっているのかという労働過程を気にするだけでも見えてくる部分がたくさんあります。他方、気をつけて見ていても情報がない部分もあり、繋がりを探求する必要性もあります。このように考えることが、将来の仕事に直結する場合もあれば、しない場合もありますが、短期的に考えるのではなく、人として世界とどのように繋がっているのかということを認識しながら生きていくということは、国際学部を卒業したかなりの人が認識できるようになっていると思います。

大学生活から学ぶこと

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就職難のこの時代、大学選びや学部選びに悩む人も多くいると思います。もちろん一概には言えないのですが、私が指導してきた学生を見ていると、自分が大学でやってきたことに磨きをかけて、何らかの形で自信に繋げることが大変重要になっていると思います。先に述べたように、大学で学んできたことのあることが短期的に直接仕事に直結する場合もあるかもしれませんが、専門的な知識だけでなく、大学で培ってきた考察力や人に伝えるというコミュニケーション能力などは、社会に出たときに必ず役に立ちますので、自分に自信が持てるような何かを大学時代に掴んでいくことが大切だと考えています。

高校生へのメッセージ

夢も現実も両方大切にしてください。自分の夢も持ち続けてほしいですし、自分の身の回りの生活も含めて現実というものも直視し理解しながら、将来の楽しみをつくっていって下さい。国際学部の良さは、教員と学生の繋がりです。学生は物怖じせず先生に質問をし、話し合いをしています。みなさん、ぜひ「やる気」を持って本学部に来てくださいね。